2014年5月30日金曜日

「狩の使ひ」

「君や来し われや行きけむ思ほえず 夢かうつつか寝てか覚めてか」

これは「伊勢物語」の「狩りの使ひ」に登場する和歌である。
朝廷から行事用の鳥獣を得るため、伊勢に派遣された使者が、伊勢神宮の斎宮(いつきのみや=極めて身分の高い未婚の女性)に恋をしてしまう。
一方、斎宮の方も使者に好意を持ち、使者に対して格別の待遇をし、さらに夜中に使者の部屋を訪れる。(これはトンデモナク思い切った行動だ。)
二人はおよそ三時間ほどの時を一緒に過ごすが何も語らないまま分かれてしまう。
そのあとに斎宮の方から贈ってきた和歌が最初に挙げた和歌である。

「あなたが来たのか、私が行ったのか、よくわかりません。いったいあれは夢だったのか、現実だったのか、寝ていたのかそれとも覚めていたのでしょうか。」

斎宮の歌は、表面的には、ぼやーとした中で何がなにやら分からずに時間が経過して行ってしまったと、解釈できるのだが、私にはどうもそうは思えない。
これは作者自身が(伊勢物語の作者は不詳)あえてはっきりさせないようにした思われるのだ。
早い話、男女が夜中に二人きりで三時間いっしょに過ごしたのだ。
なにも起きないはずはないではないか。

さて、斎宮の贈ってきた和歌に男が答える。

「かきくらす 心のやみに惑ひにき 夢うつつとは今宵定めよ」
男は思い切った歌を贈ったのだ。
「真っ暗になって心の闇に迷って何がなんだかわからなくなってしまった。昨夜のことが夢だったのか、現実のことだったかのかは、今夜もう一度訪れて決めてください。」



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