2015年8月25日火曜日

兎角(とかく)

「とかく」という言葉がある。
文豪、夏目漱石は「草枕」という小説の冒頭で「智に働けば角が立つ、情に棹(さお)させば流される、意地を通せば窮屈だ。兎角(とかく)この世は住みにくい。」と、この言葉を使用している。
「とかく」のここでの意味は、「ややもすれば(一般的にそのような悪い状態・傾向が、しばしば見られることを表す。)」だろう。
念のために「とかく」を古語辞典で引くと、「と」は「あのように」「そのように」を意味する副詞であり、「かく」も「斯くして」などと使う副詞である。このふたつの副詞が一語となって、「あれやこれや」の意味として中古から使われ始め、中世以降「あれこれあるが」とか「いずれにせよ」の意味が生じ、さらに「ややもすれば」「何はさておき」などの用法が生まれた、とある。
では、これを「兎角」と書いた場合どのようになるのだろうか。
本来の意味は、文字の通り「ウサギのツノ」、つまり「あり得ないもの(こと)」である。これは、仏教語の「兎角亀毛」からと考えられ、兎(うさぎ)に角(つの)、亀に毛は存在しない、「現実にはあり得ないもの」の喩えとして用いられたものだ。したがって「兎角」と書いた場合、「誤ったものの見方」のことで、「それについて論ずるのは無益だ。」という趣旨で使用されなければならない。何れにしろ「ややもすれば」とはまったく関係のない言葉である。
では何故、文豪、夏目漱石は「とかく」の意味で「兎角」の漢字を使用したのだろうか。 
実は、夏目漱石、当て字大好き作家であり、「背負わされた(しょわされた)」とか「反間(へま)」、「例よりも(いつもよりも)」「一寸(ちょっと)」など、使用した当て字を挙げればきりがない。
とりわけ漱石は「とかく」に「兎角」の当て字が気に入ったようで、漱石の小説には、「兎角」が頻繁に出てくる。
文豪の影響力というのは恐ろしいもの、以来、我々は何の抵抗もなく「とかく」イコール「兎角」の字を当て、何の疑いも持たず使用するようになったのである。




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