三年生の古典講読の授業で「伊勢物語」を講義しているのだが、これがナカナカである。
「むかし、をとこありけり。人のむすめをぬすみて、武蔵野へ率て行くほどに、盗人なりければ、国の守(かみ)にからめられにけり。」
これは、男が女をひそかに連れ出し、武蔵野へ逃げた話(タイトルは「武蔵野」)であるが、「伊勢物語」には、有名な「芥川」という、これによく似た話がある。
面白いのは、両方とも「男が女を盗む」とあることだ。
「盗む」というと、どうも人聞きが悪いが、両方とも、男は女と合意の上で連れ出す話なのである。
さて、「武蔵野」では、追っ手が二人の隠れた草原に火をつけようとした時に、女が男の身を案じる和歌を詠む。(生きるか死ぬかの時に和歌を詠むのだから、これはすごいね。)
そして、この和歌によって、二人が合意の行動であり、「盗んだ」のではないということが分かる仕組みなのだ。
武蔵野は けふはな焼きそ 若草の つまもこもれり 我もこもれり
「伊勢物語」は「こころざし」、すなわち「愛情」の話であることは紛れもないのである。
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