2014年10月27日月曜日

移り香

三年の古典では、源氏物語から「柏木と女三宮」を講義している。
何度講義してもこの部分、なかなかである。

「わりなき心地の慰めに、猫を招き寄せてかき抱きたれば、いと香ばしくて、らうたげにうち鳴くもなつかしく思ひよそらへるるぞ、すきずきしきや。」
(柏木は)やるせない心の慰めに、猫を招き寄せてかき抱いたところ、(女三宮の移り香で)とてもよい香りがして、かわいい声で鳴くにつけても心引かれ、自然と(女三宮に)思いなぞらえられるのは、好色がましいことであるよ。

光源氏の正妻である女三宮(正妻といっても源氏とは二十五歳も年が離れている)が、柏木(源氏の親友、頭中将の息子)から覗かれる場面である。
柏木は、源氏と女三宮の仲が疎遠であるあるのを知り、思いを募らせている。そのような時に女三宮を見るチャンスがあり、しかも彼女が抱いていた猫を自分が抱くことができたのである。
ここでのポイントは何と言っても「移り香」だ。
当時の高級貴族の女性であれば、当然、品のある「香(こう)」を自分の着物に焚きこめてあるだろう。
柏木は、「匂い」によって「女三宮」を感じることができる。

まさに「すきずきしきや」なのである。

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